乗り越える

あれからひと月。

結局、専門医に見てもらうと
『心室頻拍』との診断だった。

正常な心電に対し、
何らか発生してしまっている異常心電が、
最悪の場合、『心房細動』を引き起こし
死に至る…。

マラソン大会で良く聞く話だ。

病院へ出向く前のライドの
心拍のグラフを見ても200bpmを超え、
明らかに心拍数が飛んでいる部分がある。

負荷を掛けて運動をし続けていたが
良くぞこの状況を引き起こさずに
動いてくれていたと心の底から思う。


診察。

診察とホルター心電図の内容を聞いた後
 ①一生薬を飲みながら頻拍を抑えてしまう(根治なし)
 ②カテーテル・アブレーション(根治の可能性あり)
この2択を考えて欲しいと言われたが
心は決まっていた。

カテーテル・アブレーションは
2泊3日の入院で済む。
ただ、人生初の手術…
男だけど…心の準備が必要だった。


普段からめまいと立ち眩みがあり
合わせて細動にも気付くようになったため
安静第一との事で、12月初旬から会社を休み
家でじっとしていた。

ついつい、いつものペースで動こうとする僕を
制止してくれる妻。

妻も本当に気をつかってくれた。

動かすことの出来ない身体がもどかしい。

それ以来、大好きだった自転車も
入団したばかりの自転車競技チームも
自転車関連のSNS/通知も
全て見ないようにしている自分がいた。

くやしい気持ち…。

何だか自転車が遠い存在に感じる。


両親が、はるばる九州から心配で飛んできた。

新築のお披露目がこんな形で実現するとは
夢にも思っていなかったが…。


そんな悶々とした日々を入院までは過ごした。



12月12日、入院日当日。

10時には入院手続きを済ませる事となっていた。

相部屋に入り荷物を出す。

ベット上の天井を仰ぎ見ながら…
今日はこの天井を見ながら眠れない夜を
過ごすんだろうなと。

人生2回目の入院。
人生初の手術。
そして、人生初の剃毛(笑)


担当医から今回手術内容について説明を受ける。
首の付け根から1か所と足の付け根から3か所に
カテーテルを入れ心臓へアプローチする、というもの。

全く想像が出来ない…。

主治医は合併症についても淡々と続ける…
 心タンポナーデ
 心房ブロック(正常な心電まで焼き切る可能性があること)
 血栓塞栓症
 血管損傷
 ペースメーカーが…
不安と恐怖しか生まれない。

部屋に戻り、家族が帰った後は
好きなNike創設者の自伝小説を読みながら
消灯までの時間を過ごした。


やってきた夜は…
想像していた以上に長かった。





翌日。

この日の2件目とのことで昼前後から
準備するというもの。

朝食の味も良く分からない。

時間が過ぎるのが遅く感じる。
こうなれば早い方が諦めも付くというのに。
不安だけが頭を右左する。




11時半。呼ばれた。

方針上、尿管を入れるとの事だったが
上手く入らなかったため
尿管なしで挑むとのことだった。
(これが一番痛かったか??)

車いすに乗せられて。

処置室まで進む道のりが冷たく暗く感じた。

家族と別れ中へ入ると…
想像していた水色の手術室ではなかった。

最新設備が備わり壁も白い。
音楽?…ミスチルが流れている。
先生たちの雰囲気も明るい。

内心ほっとしながらも、手術台に乗る。

まな板の鯉とはまさにこの事か。
身体が動かないように固定し
首、足の付け根に麻酔を打たれる。

気分的に全身麻酔の方が楽だが
心臓の動きも一緒に穏やかになるため
部分麻酔により意識ある状態で行う。

足の付け根の麻酔が甘く、
強い痛みを感じたため
麻酔を追加してもらう。

管とワイヤーが入ってくる感覚が
振動を通じて伝わる。

血管が破れないか不安が襲う。

忘れるためにミスチルに耳を傾ける…
Hero…いい歌だなぁ…思わず涙が出るも
動けない。

20分くらい経っただろうか。

カテーテルが心臓へ達したとのことで
いよいよ頻脈を起こしている部分の特定に入る。

医師が指示するように電圧により心臓が操作される。

ドンっという胸元への圧迫感を感じる。
頻脈を促進する点滴や造影剤の投与。
色々なものが身体に入ってくる感覚は妙だった。

主治医から声が掛かる。
部位を特定したため焼灼するという。

数十秒・数回に分け、
電圧を掛け焼灼が始まる。

胸元がじわじわ熱くなり
ぱんぱんに腫れて痛んでいる感覚が襲う。

我慢出来ないレベルではないが
明らかに痛みを感じる。

何度繰り返しただろうか…。

頻脈促進剤を入れ20分ほど様子を見る。

心臓の動きを感じる。
でも明らかに正しい心音。
治っている感覚に安堵しながら
その時間を待った。



終わった…。

カテーテルを抜く。
ワイヤーの網目を感じる振動が続く…。
その長さを感じずにはいられなかった。
管を抜く際に痛みが走る。

身体を拘束していたものが外れると
更なる安堵を感じた。

よくやった…俺。


ストレッチャーに乗せられ
妻の顔、両親の顔を見た瞬間
安堵感から思わず涙が溢れた。

それを妻に拭ってもらった。

術後6時間は安静が必要。

その夜の天井は
前の日とは異なるものだった。


無事手術も終わり退院。

短い様で長い日々が続いたが
術後3日でようやく落ち着きを
取り戻しつつある。

いじょ。

『Simply』Life.

趣味を中心に何気ない日々の事を。

0コメント

  • 1000 / 1000